米国の利下げがカンボジア経済を押し上げる可能性

米連邦準備制度理事会は12月10日、政策金利を0.25%引き下げ、フェデラルファンド金利を3.50~3.75%としました。これは過去3年で最も低い水準で、年内3回目の利下げとなります。この決定は世界の金融市場に即座に楽観的な波及効果をもたらし、投資家は2026年に向けた金融環境の緩和を織り込み始めました。

この発表を受け、米国株式市場は上昇しました。S&P500は0.2%高の約6,900ポイントに接近し、ダウ工業株30種平均は1.34%上昇して48,850ポイントを超えました。一方、ハイテク株中心のナスダック総合指数は0.3%下落しました。商品市場でもリスク選好が広がり、金は4,200ドル台に上昇、銀は60ドルを超えて史上最高値を更新しました。ビットコインは依然として調整局面にあるものの、市場全体の強気ムードに押され影が薄くなりました。さらにFRBは12月12日から月額400億ドル規模で米短期国債を購入する計画を発表し、市場への流動性供給を一段と強化しました。

こうした楽観的な動きは米国にとどまらず、カンボジアにも波及しています。プノンペンのカンボジア証券取引所では、12月1日から17日にかけて上場企業の多くが堅調に推移し、投資家の参加も活発化しました。新規上場したピカソ・シティ・ガーデンは、IPO価格の4,800リエルから初日の取引で5,140リエルまで上昇し、市場の期待感を示しました。

一方、米国では金融市場の高揚とは別に、FRBの独立性を巡る重要な議論が進んでいます。12月2日、ドナルド・トランプ大統領が2026年のFRB議長人事について自身の意向を示したことで、金融政策が政治的影響を受けるのではないかとの懸念が再燃しました。2025年初頭には、トランプ氏が現議長のジェローム・パウエル氏に利下げ加速を求める圧力を公然とかけていましたが、パウエル氏は一貫して「金融政策はデータに基づいて決定される」と強調してきました。実際、9月の初回利下げは、失業率の上昇や消費の鈍化を確認した後に実施されています。

今後については、インフレリスクが残る中で2026年は慎重姿勢が続くとの見方が強く、より積極的な金融緩和を求める政権側との溝は埋まっていません。経済学者は、金融政策への政治介入が投資家信頼を損ない、長期的な経済不安定を招くと警告しています。トルコでは、中央銀行への政治的圧力が続いた結果、インフレ率が2022年に85%まで急上昇し、通貨リラは大幅に下落しました。同様の事例はアルゼンチンやベネズエラ、ハンガリーでも見られ、中央銀行の独立性が金融安定の要であることを示しています。

こうした中、米国の利下げはカンボジアにとって短期的には追い風になると見られています。米金利の低下は企業活動や消費、投資を刺激し、衣料品や履物、農産品などカンボジアの対米輸出需要を間接的に押し上げる可能性があります。ロイヤル・グループ・ファンズの投資家向け広報責任者、アンドリュー・サリバン氏は、米国の利下げが世界的な借入コストの低下につながり、時間をかけてカンボジアの金融システムにも浸透すると指摘しています。借入コストが下がれば、家計や企業の可処分資金が増え、消費拡大や投資の活性化、雇用創出につながる可能性があると述べました。

ただし、その効果が本格的に現れるには時間がかかるとみられています。消費者心理は比較的早く改善する可能性がある一方、国境情勢の緊張や散発的な治安事件が国際報道で強調されれば、観光回復の足かせになる恐れもあります。それでも、今回のFRBの決定は、全体としてカンボジアにとって前向きな金融環境を後押しし、投資家信頼を強化する要因になると評価されています。米国消費に強く依存する輸出構造と、着実に成長する資本市場を持つカンボジアにとって、米国の金融政策は今後も経済の方向性を左右する重要な役割を果たし続けるとみられます。