ASEAN+3の次の10年を規定する10の力

2026年を迎えるにあたり、ASEAN+3(ASEAN諸国に中国、日本、韓国を加えた地域)は、人口動態、技術、環境、地政学といった複数の変化が同時進行する転換点に立っている。今後10年間の成長率は、堅調な基礎条件を背景に年平均約4%と見込まれるが、その道筋は、政策当局がいかに複雑化する環境を乗り越えるかに左右される。

こうした状況の中、ASEAN+3の経済的な行方を決定づけるのが、いわゆる「10のD(Ten Ds)」と呼ばれる10の要因である。地域がより強靱な姿で次の10年を迎えられるかどうかは、域内統合の深化と、回復力および機動性を高められるかにかかっている。

持続的成長の基盤

人口動態
ASEAN+3における人口動向は二極化している。中国、日本、韓国では急速な高齢化が進む一方、インドネシアやフィリピンでは若年で拡大する労働力が維持されている。こうした差異を踏まえ、労働市場改革、人材投資、社会保障制度の強化が、包摂的成長と中長期的な財政持続性の両立に不可欠となっている。

開発
インフラ不足は依然として成長の制約要因である。過去20年間で力強い経済成長を遂げたにもかかわらず、交通、エネルギー、デジタル接続性といった分野での不足は解消されていない。ASEAN+3全体で未充足のインフラ需要は約1兆9,000億ドルに上るとされ、これを解消することは、生産性向上のみならず、域内統合の深化にも不可欠である。

デジタル化
デジタル変革は、ビジネスモデルや金融システムを大きく変えつつある。一方で、世界全体で約1兆6,000億ドルとされるデジタルインフラ投資ギャップの解消は喫緊の課題だ。デジタル化が生産性と包摂性を高めるためには、インフラ整備、規制、技能育成が技術進展に追いつく必要がある。

政策枠組みを試す圧力

債務
複数のASEAN+3諸国で政府債務が高水準に達し、公共投資が求められる局面で財政余地が制約されている。金利負担の増加と成長鈍化の中で、財政バッファーの再構築と、効果的かつ透明性の高い財政運営が、安定と市場の信認維持に不可欠となる。

防衛
地政学的緊張の高まりにより、防衛支出の増加が続いている。ASEAN諸国だけでも2024年の防衛支出は506億ドルを超え、多くの国でGDP比約1.8%に達している。社会・開発分野への投資を圧迫しないよう、戦略的必要性と長期成長のバランスを取る政策判断が求められる。

災害リスク
自然災害と気候変動は、ASEAN+3にとって恒常的なリスクであり、特にASEAN諸国で影響が深刻だ。2015~2020年の間に、世界の災害関連死者の約7.7%を占め、経済損失は約110億ドルに達した。極端気象の頻発・激甚化を背景に、強靱なインフラ投資と災害リスク金融の整備が、財政の持続性と成長の鍵となる。

ドル依存
米ドルの国際金融における中心的役割は、ドル建て債務を抱える国々に外部ショックへの脆弱性をもたらしている。自国通貨建て決済の拡大、域内流動性枠組みの強化、開放的な対外経済関係の維持が、リスク低減に資する。

変革のダイナミクス

貿易・投資の多角化
戦略的競争や技術変化に伴い、グローバル・バリューチェーンは再編が進んでいる。ASEAN+3は域内連携を深めつつ、対外パートナーとの関係も維持し、特定市場や供給網への過度な依存を避ける必要がある。

脱炭素化
ASEAN+3には、世界の温室効果ガス排出量上位10カ国のうち3カ国が含まれ、全体で世界排出量の3分の1以上を占める。パリ協定に基づく気候対策の実行には、クリーンエネルギーやグリーンインフラ、持続可能な金融の拡大が不可欠であり、域内協力が移行を加速させる。

破壊的イノベーション
AI、バイオテクノロジー、量子技術などの新技術は、人口構造の変化や貿易構造の再編に対応する有力な手段となる一方、雇用や規制、利益配分に新たな課題を突きつけている。包摂性と適切なガバナンスを確保しつつ、革新を促す政策が求められる。

統合、回復力、機動性

これら「10のD」は、それぞれの影響だけでなく、相互に絡み合う点に特徴がある。貿易摩擦が緩和され国際協調が続く好条件下では、ASEAN+3は持続的かつ包摂的成長を実現できる。一方、分断が長期化すれば、財政、供給網、金融安定への圧力は一段と強まる。

いずれのシナリオにおいても重要なのは、「回復力」と「機動性」である。外向きで開放的な姿勢を維持しつつ、域内統合を深化させることが、その基盤となる。人口動態、デジタル化、債務、災害リスクなどをいかに管理するかが、ASEAN+3が次の10年を乗り切るだけでなく、より強靱で統合された地域へと進化できるかを左右するだろう。