オーストラリアおよびニュージーランド駐在のカンボジア大使、チュンボラン・チャンボレイ氏は、学術系政策メディア「東アジア・フォーラム(East Asia Forum=EAF)」が2026年1月28日に掲載した論考「国境危機が露呈させるカンボジアの不透明な政治経済」に対し、強い調子で反論する書簡を編集長のピーター・ドライスデール教授宛てに送付した。
チャンボレイ大使は書簡の中で、同論考について「事実に反し、政治的に偏ったカンボジア像を提示している」と指摘し、「建設的対話の精神に基づき、いくつかの重要な点について是正を求めたい」と述べている。
第一に、大使は、論考がオンライン詐欺(サイバー詐欺)対策の困難性を考慮せず、カンボジア政府の継続的かつ組織的な取り組みを無視していると批判した。サイバー詐欺はカンボジアだけでなく、東南アジア全域およびそれ以外の国々にも影響を及ぼす越境型の安全保障脅威であると強調。フン・マネット首相率いる王国政府(RGC)は問題の深刻さを公に認め、政府横断的な対応を進めてきたと説明した。
具体例として、2025年2月に首相を議長とする「オンライン詐欺対策委員会(CCOS)」を設置し、法執行機関の連携や外国政府・国際機関との協力を強化したことを挙げた。また、直近6カ月間だけで18の都市・州において少なくとも118の詐欺拠点を摘発し、約5,000人の外国人関与者を逮捕、多くを本国送還したと述べた。
第二に、同論考が最近の国境緊張の責任を一方的にカンボジアに帰している点について、大使は強く反発した。2025年5月28日の衝突以降、カンボジアは最大限の自制を保ち、国際法に基づく平和的解決と、ASEAN、中国、米国による第三者仲介を求めてきたと主張。一方で、タイによる武力行使は国際法、国連憲章、ASEAN憲章、東南アジア友好協力条約に明確に違反するものであり、これに言及しない論考は事態の本質を歪めると批判した。
第三に、国境地帯のカジノ事業と中国によるリアム海軍基地支援を結び付ける論調について、大使は「虚偽の物語」だと一蹴。主権国家としてカンボジアが国防能力と海洋主権を守るのは正当な権利であり、商業活動と防衛・安全保障を混同するのは不当だと述べた。リアム海軍基地については、2025年4月の拡張工事完了以降、日本、ベトナム、米国の海軍艦艇が寄港している事実を指摘した。
第四に、プレア・ビヒア寺院を「係争地」と表現した点については、単なる表現上の誤りではなく、国際司法裁判所(ICJ)の確立した判決に反する重大な事実誤認だと批判した。ICJは1962年6月15日および2013年11月11日の判決で、同寺院がカンボジアの主権領域内にあることを明確に認定していると強調。さらに、タイ軍による同世界遺産への損害行為は、文化財破壊に当たり、1954年ハーグ条約および1972年世界遺産条約にも違反すると指摘した。
第五に、フン・セン上院議長がタイ国内のカンボジア人出稼ぎ労働者を「武器化した」との主張について、大使は「全く根拠がない」と否定した。2025年5月以降、出稼ぎ労働者が言葉や身体的な暴力を受け、多くが身の安全への懸念から帰国を選択したと説明。約85万人の帰国者のうち、すでに62万人以上が国内で新たな雇用を得ていると述べ、「証拠なき非難はEAFの信頼性を損なう」と警告した。
チャンボレイ大使は最後に、EAFに対し、サイバー詐欺問題およびカンボジア・タイ国境問題に関する報道と分析を再検討するよう求めるとともに、編集部との説明会の開催を要請。「カンボジアの立場をより正確かつ多角的に理解してもらいたい」としている。