米国の通商政策が大きく転換し、世界の関税構造が1年足らずで2度目の再編を迎える中、カンボジアの経済見通しは新たな不確実性と機会の局面に入った。
2025年4月2日、ドナルド・トランプ米大統領は、米国に対して大きな貿易黒字を持つ国々を対象とする大規模な「相互関税」を発表した。当初、カンボジアには49%という高率の関税が課される見通しだったが、その後の交渉により2025年8月には19%に引き下げられ、輸出国としての競争力が一定程度維持された。
しかし、その後さらに事態は展開した。2026年2月20日、米連邦最高裁は相互関税の枠組みを無効と判断し、米政府は新たに世界共通の関税制度として10~15%の関税を導入した。カンボジアにとって、この政策の再設定は必ずしも後退ではなく、新たな戦略的機会となる可能性もある。
輸出の強さ
2025年後半から2026年初めにかけて、カンボジアは19%の関税の下で輸出を行っていたが、その輸出の勢いは鈍るどころか加速した。
関税総局の統計によると、2026年1月の対米輸出額は12億8,000万ドルに達し、前年同月の8億6,870万ドルから47.6%増加した。米国は同月のカンボジア総輸出の43.9%を占め、前年の37.7%から大きく上昇した。
このデータは、カンボジアの衣料品、履物、旅行用品といった主要輸出産業に対する米国の需要が依然として強いことを示している。関税が高い状況でも、米国のバイヤーはカンボジアの工場からの調達を継続していた。今回、世界共通関税が10~15%に設定されたことで、カンボジアが負担する関税は従来の19%よりも相対的に軽減され、競合国との格差は縮小した。完全な救済とは言えないが、より公平な競争条件に近づいた形だ。
市場の反応
米最高裁の判断を受け、金融市場は迅速に反応した。米国ではウォール街が上昇し、S&P500指数は0.7%、ダウ工業株平均は0.5%、ナスダック総合指数は0.9%それぞれ上昇した。
アジア市場ではさらに強い楽観が広がり、香港のハンセン指数は2%以上上昇、韓国のKOSPI指数は過去最高値を記録した。
しかし、この上昇は長く続かなかった。トランプ大統領が新たな10~15%の世界関税を発表すると、米国市場は下落に転じた。S&P500は1%下落、ダウ平均は1.7%安、ナスダックも1.1%下落し、投資家は再び貿易政策の不確実性を織り込み始めた。一方で、香港や韓国など一部のアジア市場は比較的堅調さを保った。
こうした急激な市場変動は、関税緩和への期待と政策の不透明性との微妙なバランスを浮き彫りにしている。
カンボジア株式市場の安定
世界の市場が大きく揺れる中、カンボジアの株式市場は比較的落ち着いた動きを見せた。
2025年8月に19%の関税が確定した際、カンボジア証券取引所指数は月間で約0.1%の小幅上昇にとどまり、大きな売り圧力は見られなかった。
また、世界市場が不安定だった2026年2月も、同指数は月初から月末にかけて約1.1%上昇した。緩やかな上昇傾向は、同国の株式市場が世界的な貿易ショックよりも国内資金や構造的要因に支えられていることを示している。
競争格差の縮小
在カンボジア米国商工会議所(AmCham Cambodia)会長であり、CamEdビジネススクールのケーシー・バーネット氏は、新しい関税制度がカンボジアの相対的な競争力を高める可能性があると指摘する。
従来の制度では、中南米諸国やトルコ、エジプト、アフリカの一部の国々など、同様の製品を生産する国々が10%程度の低い関税で米国市場にアクセスしていた。新制度では、すべての国が最恵国待遇(MFN)関税に加えて最大15%の追加関税を支払う必要がある。
この結果、競争条件の格差は縮小する。以前は高い関税で不利だったカンボジアが、製造拠点としてより魅力的に映る可能性もある。輸出注文の流入や、輸出志向型産業への新たな外国直接投資(FDI)の増加につながる可能性もある。
残るリスクと課題
もっとも、状況は依然として流動的だ。
今回の世界関税は、米国通商法第122条に基づく措置で、最長150日間の暫定的なものとされている。トランプ大統領は、不公正な貿易慣行を調査する第301条の適用など、別の法的手段を取る可能性も示唆しており、さらなる措置が取られる可能性も否定できない。
米国市場への依存度が高いカンボジア経済にとって、この関係の管理は選択肢ではなく不可欠な課題だ。
バーネット氏は、プノンペン政府が米国企業にとってのビジネス環境の改善に重点を置くべきだと指摘する。米国製のICT機器、農業資材、医療機器、医薬品などに対するライセンス免除手続きの簡素化と制度化は、二国間の経済関係を強化する可能性があるという。現状では、ライセンス手続きが遅く複雑で不透明な場合が多く、投資を阻害する要因となりかねない。
過去30年間、米国市場はカンボジア経済の成長を支える柱であり続けてきた。世界の貿易ルールが再び変化する中、カンボジアは再び試練に直面している。すなわち、迅速に適応し、競争力を維持し、不確実性を新たな機会へと転換できるかどうかである。
関税政策が揺れ動く世界において、カンボジアの最大の強みは、やはりその「レジリエンス(回復力)」にあるのかもしれない。