平日の朝、トヨタ・カンボジアのプノンペン本社ショールームは多くの来客でにぎわっている。来場者はフロントガラスに「Made in Cambodia」と掲げられたハイラックスを囲み、興味深く見入っている。このピックアップトラックは、プノンペン特別経済区にある工場で組み立てられたもので、2年前までは技術専門学校に通っていた若い労働者たちによって生産されている。
カンボジアでは、道路を走る車両の65%以上が中古のトヨタ車(レクサスを含めればさらに多い)とされる。そうした中、すでに国内で圧倒的な存在感を持つブランドが、国内での生産にも乗り出したことは、小さいながらも象徴的な変化と言える。
トヨタはカンボジアで33年にわたり事業を展開してきた。世界では6年連続で自動車販売台数トップを維持しており、2025年には約1,050万台を販売した。こうした実績は同社に大きな影響力をもたらしている。
トヨタ・カンボジアの土屋健介社長は「カンボジアでは、トヨタを国民ブランドにしたい」と語る。
「すべての顧客、そして人生のあらゆる段階において、モビリティソリューションを提供したい」
この考え方は、トヨタ自動車の豊田章男会長が強調してきたグローバルな理念とも一致する。すなわち、モビリティとは人々が安全に移動し、機会とつながり、自信を持って未来へ進むことを可能にし、生活を向上させるためのものだという考えである。
同社の戦略は、顧客のライフステージに応じた製品ラインアップに表れている。
「ライズ」は初めて車を購入する若年層向け、「ヤリスクロス・ハイブリッド」は燃費を重視する都市部の家族向け、「ヴェロズ」は長距離移動や家族の成長に対応するモデルだ。「ハイラックス」は商業用途の主力車種として位置付けられ、「フォーチュナー」は地方で広い車内空間や高い地上高を必要とする家庭向けとなる。そして最上位にはレクサスがある。
トヨタは、25歳でライズを購入した顧客が、55歳になってもトヨタまたはレクサスを選び続けるような関係を築きたいと考えている。
土屋社長は「カンボジアでは、一人の顧客が人生の中で4〜5台の車を購入する可能性がある」と述べ、「そのすべての取引にトヨタが関わりたい」と語った。
アフターサービスの重要性
車の価格や仕様も重要だが、ショールームで最も多く聞かれる質問はもっとシンプルだ。「この車を安心して整備できる場所はどこか」という点である。
トヨタの答えは、都市部から地方まで全国をカバーする認定サービス工場のネットワークだ。
このネットワークには2つの役割がある。車両を長く道路で走らせ続けること、そして中古市場での価値を維持することである。
純正部品を使用し、正規サービス工場で整備されたハイラックスは、購入から数年後でも高い価格を保つ。車を資産として捉える傾向が強い市場では、こうした点が仕様以上に重要視される。
この取り組みを制度化するため、トヨタ・カンボジアは認定中古車プログラム「T-PLUS」を拡充した。同制度は約10年前から運用されており、車両は外装・内装・機械状態などの詳細な検査を受け、評価に基づいた透明な価格が設定される。
土屋社長は「透明性のある中古車市場を作りたい。トヨタがその発展をリードすべきだ」と語った。
カンボジアで生産、カンボジア人が製造
トヨタ通商マニュファクチャリング・カンボジアは、2024年5月にプノンペン特別経済区で操業を開始した。工場では約2,500点の部品を用いてハイラックスとフォーチュナーを組み立てている。従業員は約120人で、その約80%がカンボジアの職業技術教育機関から直接採用された人材である。
現在、カンボジアで販売されるハイラックスとフォーチュナーはすべて国内で組み立てられている。需要が供給を上回る時期でも、工場は生産を止めることなく稼働し続けた。
土屋社長は「現地組立はコスト効率だけでなく、長期的なコミットメントを示し、国内の付加価値創出にも貢献する」と強調した。
トヨタは将来的にさらに多くの車種の現地生産を検討しており、溶接や塗装などの工程を導入する可能性もある。これが実現すれば、国内で生み出される付加価値は大幅に高まる見通しだ。
次世代人材の育成
トヨタは今月中にも、カンボジアの技術教育機関と共同で「トヨタ・アカデミー」を設立する予定である。年間約250人の学生を対象とし、教室での授業と実際の整備工場での実習を組み合わせた教育プログラムを提供する。
学生は有給インターンシップを経験し、ディーラーや組立工場、提携整備工場への就職につながる可能性がある。
土屋社長は「将来、日本人の社長は必要なくなるかもしれない。カンボジア人の専門家が国家レベルでリーダーシップを担うようになるだろう」と語った。
ただし課題は技術力よりも管理能力であり、支店運営から地域、さらには国家レベルの組織を運営できる人材の育成が重要だと指摘した。
競争と市場の未来
昨年、カンボジアでは新車販売台数が初めて中古車輸入台数を上回った。土屋社長は、3年以内に新車が市場全体の約60%を占める可能性があると見ている。ただし、価格競争力の高いメーカーの参入により成長は緩やかになる可能性もある。
若い購入者はデジタル機能や価格競争力を重視する傾向が強まっている。トヨタはこれに対し、全国サービス網、中古車価値の安定、そしてデジタル機能の着実な改善によって対応する方針だ。
土屋社長は「顧客の信頼を得た後は、その所有期間を通じてサポートする。顧客は長期的にトヨタを選び続けてくれる」と述べた。
トヨタの戦略は短期的な販売競争に勝つことだけではない。部品供給、中古車市場の信頼性、サービス網、人材育成など、さまざまな面で国内に深く根を張ることを目指している。
カンボジアはもはや単なる輸入市場ではない。今や事業拠点として成長しつつある。
トヨタは、最も深い基盤を築いた企業こそが、市場が成熟したときに競争を制すると見ている。