ミシガン州リヴォニア発–シーガルと呼ばれる小型で低価格の電気自動車が、アメリカの自動車メーカーや政治家たちを震え上がらせている。
中国の自動車メーカーBYDが昨年発売したこの車は、中国では1万2000ドル程度で販売されているが、走行性能は高く、3倍もする米国の電気自動車に匹敵する職人技で組み立てられている。走行距離の短いバージョンは10,000ドル以下である。
中国からの輸入車には関税がかけられているため、シーガルは今のところアメリカには輸入されない。
しかし、中国から低価格のEVが急速に台頭すれば、1970年代の石油危機の際に日本メーカーが参入して以来の方法で、世界の自動車業界を揺るがす可能性がある。BYDは 「Build Your Dreams 」の頭文字をとったもので、アメリカの自動車業界にとっては悪夢となるかもしれない。
フィラデルフィア近郊にあるオートフォーキャスト・ソリューションズ社のサム・フィオラニ副社長は、「BYDを競合相手として注目していない自動車会社は、BYDが市場に投入されたときに路頭に迷うことになるだろう」と語る。BYDの米国市場参入は、「もしも 」の話ではない。BYDの米国市場参入は 「もしも 」の話ではなく、「いつ 」の話だ」。
米国の政治家やメーカーはすでに、中国のEVを深刻な脅威と見なしている。バイデン政権は火曜日、中国から輸入される電気自動車が米国の雇用と国家安全保障に脅威をもたらすとして、100%の関税を課すと発表する見通しだ。
米国製造業連盟は、政府補助金を受けた中国のEVは、「米国の自動車セクターにとって絶滅レベルの出来事で終わる可能性がある 」と論文で述べている。
今年初め、テスラのイーロン・マスクCEOは、中国のEVは非常に優れており、貿易障壁がなければ、「彼らは世界の他のほとんどの自動車会社を破壊するだろう 」と述べた。
中国以外では、EVは高所得者向けの高価なものであることが多い。しかし、中国ブランドは大衆向けに手頃な価格の選択肢を提供している。ちょうど多くの政府が気候変動と戦うためにガソリン車からのシフトを奨励しているのと同じことだ。
デトロイト近郊の巨大なガレージでは、ケアソフト・グローバルという会社が、中国支社が購入し米国に出荷した鮮やかなグリーンのシーガルを解体し、組み立て直していた。
元ゼネラル・モーターズのピックアップ・トラックのチーフエンジニアであるテリー・ウォイチョウスキー社長は、この車は低コストEVの設計で中国に何年も遅れをとっているアメリカ産業にとって「明確な呼びかけ」だと語った。
解体後、ヴォイチョウスキーは、米国の自動車メーカーが適応できるかどうか疑問が残ったと語った。「競争するためには、根本的なところから変えていかなければならない」と彼は言う。
BYDがシーガルをわずかなコストで製造できる理由を説明する奇跡はひとつもない。むしろ、1回の充電で252マイル(405km)走行できるこの車全体が、「効率の追求 」なのだとウォイチョウスキーは言う。
米国の人件費の高騰もその一因だ。BYDはまた、バッテリー製造の専門知識(主に消費者向け製品に使用されるリン酸鉄リチウム化学)を持っているため、コストを抑えることができる。この電池はコストは低いが、航続距離は現在のほとんどのリチウムイオン電池より短い。
ウォイチョウスキーによれば、アメリカ人はより安価なバッテリーの製造方法をまだ学んでいる段階だという。
BYDはまた、電気モーター、ダッシュボード、車体など多くの部品を自社で製造しており、昨年は世界で300万台を販売した巨大な規模を活かしてコスト削減を図っている。
BYDはコストと効率を念頭に置いて自動車を設計している、と彼は言う。