国連で非難応酬、国境衝突激化の中

タイとカンボジアは、国境地帯での戦闘が数十万人の住民を避難させる中、互いを越境侵略の加害者として非難する書簡を国連に提出し、外交的対立を一段と深めている。

タイのチェルダイ・チャイワイウィット国連大使は10日、アントニオ・グテーレス国連事務総長宛ての書簡で、カンボジアが「タイ王国の主権と領土保全を重大に侵害した」と主張した。書簡によれば、10日、シーサケット県で道路補修作業を行っていたタイ軍に対し、カンボジア軍が発砲し、兵士2人が負傷。その翌日には、ウボンラーチャターニー、ブリラム、スリン、シーサケット、サケーオの各県で「挑発なき攻撃」が激化し、兵士1人が死亡、18人が負傷(うち3人重体)。40万人以上が避難を余儀なくされ、避難中に心臓発作で2人が死亡したという。

タイ側は、カンボジア軍が重機関銃、迫撃砲、多連装ロケット砲などを使用し、「民間人および民間施設を意図的に標的にした」と非難。自国の軍事行動については、国連憲章51条に基づく自衛措置であり、必要最小限で比例的な対応だったと主張している。また、カンボジアが「虚偽の物語」を用いて事実を歪曲し、タイの信用を損なおうとしていると批判した。

さらに、タイ側は、タイ領内へのPMN-2地雷の埋設や11月の発砲事件など「挑発のパターン」が存在すると主張し、国際社会に対し、カンボジアへ圧力をかけ戦闘を停止させるよう求めた。書簡は国連総会文書としての流通を要請している。

一方、翌日にカンボジアが提出した書簡は、12月議長国スロベニアのサミュエル・ズボガル国連安保理議長宛てで、タイ軍が「挑発なき、違法かつエスカレートする武力攻撃」を開始したと反論した。カンボジアのケオ・チア国連大使は、タイ軍がプレアビヒア、オダー・メアンチェイ各州のカンボジア側陣地に重火器を撃ち込み、その後も夜間の迫撃砲攻撃を続けたと主張。翌朝には戦車、重砲、ドローン、戦闘機、「有毒煙」まで使用し、戦闘をバンテアイ・メアンチェイ、ポーサット、バッタンバン各州の非戦闘民間地域に拡大したと述べた。

カンボジア側は、民間人の死傷、住宅・インフラの破壊、さらにプレアビヒア寺院を含む文化遺産への被害が出ていると訴えた。また、10月の停戦およびクアラルンプール和平合意を遵守するため、24時間にわたり反撃を控える「最大限の自制」を示したと主張。タイがこれらの合意に違反し、1904年・1907年条約や国際司法裁判所の判断、2000年の国連登録境界文書に反する「一方的な地図」に依拠していると批判した。

カンボジアは、現状が地域の平和と安全に対する直接的脅威であるとして、安保理に対し、タイの行動の非難、即時停止の要求、そして独立した国連調査団の派遣を求めている。

両国が互いに国連憲章違反や国際人道法違反を訴える中で、その主張は食い違い、外交的断絶は一層深刻化。双方とも自衛権の行使だと主張しており、情勢判断は困難を極めている。安保理は、カンボジアの要請に対し、現時点で公式な対応を示していない。

現地では戦闘が続き、ASEANや国際社会が危機拡大を防ぐための介入に迫られている。
教皇レオ、即時停戦を呼びかけ
一方、教皇レオは水曜の一般謁見で、タイ・カンボジア国境で再燃した戦闘を受け、深い悲しみと強い懸念を表明。犠牲者と大量避難の発生に「心を痛めている」と述べた。

教皇は「国境地帯での新たな衝突の知らせを深い悲しみとともに受け止めています。民間人を含む死傷者が出ており、数千人が家を追われています。祈りをもって両国の人々に寄り添います」と語った。

さらに、度重なる衝突を遺憾とし、関係当事者に対し即時停戦と対話再開を強く要請。「発砲を直ちにやめ、対話に戻るよう求めます」と呼びかけ、民間人保護と外交的努力の再開を訴えた。